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第11話 打ち明けられた秘密①

last update Last Updated: 2025-06-23 18:31:21

「え? 犬? どこから……」

 突然現れたチワを、大地は大きな目で穴が開くほど見つめている。

 その視線を軽く受け流し、チワが淡々と話し出す。

「大川大地、私は天界からやってきた使い魔のチワ。

 あゆと共に魔界からやってきた魔族と戦い、人間を救っている」

 チワワがしゃべり出したことに驚き、開いた口が塞がらない大地が急に大声を出した。

「犬が、しゃべってるっ!」

 その言葉に、少しムッとしたチワは不機嫌そうな声音に変わった。

「悪いか? 世の中にはおまえが知らない世界がたくさんあるということだ。人知れず悪魔と戦うあゆのような存在もな。

 おまえたちがのうのうと生きている世界では、悪魔が人の心の弱さにつけ込み、魂を食らおうとしている。

 魂を食われた者は、本来の自分とは違ってしまう。純粋で綺麗な心は消え、本来なら奥底に隠している醜い部分が露わになる。

 そんな存在ばかりになれば、この世界の秩序は乱れてしまう。

 ここまで言えばおまえみたいな馬鹿そうな奴でも、言っている意味はわかるだろう?

 そういう存在から人々を守るため、天界があゆを選んだ。

 あゆは人々のために、悪魔と戦っているのだ」

 目の前で起こっていることに驚きつつ、何とかついていこうと努力する大地。

 あゆとチワを交互に見ながら一人何やらつぶやいている。

 混乱する頭を整理しているようだ。

 そんな大地の様子を憐れむように見つめたチワが、一つ咳払いをしてから話し出す。

「本来なら、一般人のおまえにこんなことを知られては問題なのだが。

 昨日あれだけ見られてしまってはどうしようもない。

 上には報告して確認を取った。

 おまえがこのことを口外しないと誓うなら、おまえの記憶はそのまま残る。

 もし口外しようものなら、昨日のことは記憶から一切なくなる」

 チワの顔は真剣そのものだ。

 天界が下した判断は絶対で、誰にも覆すことはできない。

 ここで、大地が反発するようなら、何のためら
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